、持ち添えて見ていた手を離した。
「じゃ参ります」
「丁寧だね」
「いいこと? じゃ私役があるわよ」
 登美が本気になって声を張上げた。
「十一《といち》!」
 縫子は、手の中を絶えず英輔に見せるようにしつつ、百人一首でもするような手つきで歌留多をめくった。
「姉さんと父さんとそっくりね、いやに不景気なやり方をするんだもの」
 色の黒い、しかし太って皮膚の軟い勘次郎は太い眉をひくひく動しながら、
「勝てばやり方なんかどうでもいい」
と、舌たるいように云った。
「変だね僕こんな筈はないんだがな、見てくれよこれを」
 英輔は碁石入の蓋にたまった借貫の南京豆をからからころがした。やッと、英輔が親になった。
「ようしこれで皆の財産総浚いにしてやるぞ。不見《みず》!」
「あらあ」
 娘たちが一時に恐惶した。
「小場《こうば》が出ろ! 小場《こば》が出ろ!」
「なあに――シッ! とどうだ。偉いだろう」
「何? あら坊さん? あら! あら! ずるいわ英兄さんずるいわ、そんな一度に二十もの三枚も出すなんて……」
「仕様がないよ、天が我に幸したのさ――あ、誰でもいらっしゃい、出る人は九貫、下りる人は三貫
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