たし、英輔自身慶大の法科に通学していたりするので、杉村の家族は彼が来るといつもどこか家が明るくなったように感じた。娘たちばかりでなく、なみでさえ外から帰って来ると、
「おや珍しい」
と気さくな悦びを示した。
「悠くり出来るんでしょう? 今日は。――伯母さんはいかが相変らずですか」
彼女は布団の上に立って帯をしめかけている縫子を見て、毒のない冗談をあびせた。
「さあさあ御病人さんも寝ちゃいられますまい」
まだ大儀なのだがまあ折角のお客だからという風に体を扱っていた縫子も、夕飯が賑やかにすみ、好きな花合せが始ると、しんから溢れる活気をかくす業など忘れてしまった。坐布団を真中にして、長火鉢の両側に父親の勘次郎となみ。登美がその次で縫子は英輔と隣り合わせであった。
「おりるおりる、こんな変てこな札つかまされて出られるもんか」
すると、縫子が、
「じゃ見て貰おうっと。ね、どうこの手――大丈夫?――仕様がないでしょう」
両手に札を扇形にひらいて持ったまま膝をくずして英輔の方へさし出した。
「そうねえ――このかげがありゃ素敵だが――」
英輔は勢よく、
「行き給え行き給え、僕がついてる」
と
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