幸だ、ハハハハハハ」
 登美がお茶を出したり、それを英輔が飲んだりするのを傍で眺めると、縫子には自分の寝ているのが詰らなく感じられてきた。体がいつか軽くなった。それを無理に夜具で寝かしつけているような心持さえする。
「母さんは?」
「ちょっと買物」
「何、それ」
 英輔が登美の抱えていた小丼を見つけたらしい。
「何でもないわ」
「どれ――僕にもくれ給えよ」
「いや」
「変だね、何なのさ。ウワー、登美っぺ、こんなものが好きなの、驚いたね」
「平気よ」
 登美は落付いてまたきんとん煮を食べだしたらしい。羽織を着、餉台に肱をついている英輔の後つき、その横で喋ったり食べたりしている登美のふっくりした顔などまことに楽しく睦じそうに見える。縫子は羨しい、起きたい心を抑えきれなくなって来た。彼女は、欠伸とも吐息ともつかない声を出し、布団のうちで重々しい寝がえりを打った。登美が、
「なあによその声」
と笑いだした。
「起きたらいいじゃないの姉さんたら……」
「起き給え、起き給え! うんと遊べばそんな病気なんぞ癒っちまうよ」

        四

 英輔の親友が小さい或る銀行の重役のようなことをしてい
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