声で抗った。
「頭が重いのに――放っといて」
云われるまでもなく姉にはそれ以上かまわず、登美は茶箪笥の前へ蹲んだ。
「なあにかないか――おや――素敵!」
彼女は小丼に一杯きんとん煮にした甘藷を発見したのであった。
「お昼に煮たの? 姉さん沢山食べたんでしょ」
冷かしながら、登美は早速箸を持ってきた。
「ああおいしい」
如何にも好物を嬉しそうに抱え込んでいると、ガラリと格子が開いた。おやと登美が箸を止め、出て行こうとする間もなく続いて境の唐紙が一気に開かれた。
「やあ今日は、何だ、縫ちゃんどっか悪いの」
和服で立ったのは従兄の英輔であった。
「いやな英兄さん、びっくりしたわ」
登美は改めて、
「こんにちは」
と少女らしい挨拶をした。
「どうしたの、悪いの」
縫子は、鼻のところまで夜具の衿を引上げ、赧くなり、極りわるげに眼で笑った。
「頭が重いんだって」
登美が代って答えた。
「へえ、風邪? この頃流行ってると見えるね、クラスでも閉口してる奴があった」
そしてまた、寝ている縫子を顧みた。
「大したことないんだろ?」
縫子は合点した。
「姉さんの、気病よ」
「仮病でなくて
前へ
次へ
全21ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング