声で抗った。
「頭が重いのに――放っといて」
 云われるまでもなく姉にはそれ以上かまわず、登美は茶箪笥の前へ蹲んだ。
「なあにかないか――おや――素敵!」
 彼女は小丼に一杯きんとん煮にした甘藷を発見したのであった。
「お昼に煮たの? 姉さん沢山食べたんでしょ」
 冷かしながら、登美は早速箸を持ってきた。
「ああおいしい」
 如何にも好物を嬉しそうに抱え込んでいると、ガラリと格子が開いた。おやと登美が箸を止め、出て行こうとする間もなく続いて境の唐紙が一気に開かれた。
「やあ今日は、何だ、縫ちゃんどっか悪いの」
 和服で立ったのは従兄の英輔であった。
「いやな英兄さん、びっくりしたわ」
 登美は改めて、
「こんにちは」
と少女らしい挨拶をした。
「どうしたの、悪いの」
 縫子は、鼻のところまで夜具の衿を引上げ、赧くなり、極りわるげに眼で笑った。
「頭が重いんだって」
 登美が代って答えた。
「へえ、風邪? この頃流行ってると見えるね、クラスでも閉口してる奴があった」
 そしてまた、寝ている縫子を顧みた。
「大したことないんだろ?」
 縫子は合点した。
「姉さんの、気病よ」
「仮病でなくて
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