どく大きく響いた。
「そうだろうと思っていますけどね、何しろ」
あと急にひそひそ話になった。縫子は心持を悪くした。彼女は覚えず欹《そばだ》てていた耳まで夜具をかぶり、再び物懶《ものう》く目を瞑った。六畳でのひそひそ話しはざっと、
「何しろ、縫子には義理がありますから、そこがね、どうも難しいんですよ。うっかりお嫁にやれば私に考えがあるようにとって喧しい人が出て来ますし、養子して跡立てさせるとしたところが、養子は養子でまた難しいものですしねえ。財産でもあってのことなら何ですけれど……」
という意味であった。なみは気の平らな二度目の母親としては珍しい女であった。彼女はただあまり平らかな気持すぎて縫子のことを話すのでさえどこやら永年世話したお針子の一人のことでも話すと同じようなところがあった。
翌日、縫子は思いがけないきっかけで床を離れることになった。
四時頃登美が学校から帰って来た。
「あら、姉さんまだ寝てるの」
制服姿で、母親のなみに似て色こそ黒いが釣合のよい体つきで荷物を机に置いた。
「お起きなさいよもう。――どこも悪いんじゃないんじゃないの、私狭くって困るわ」
縫子は力のない
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