野上彌生子様へ
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)気質《テムペラメント》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)貴女[#「貴女」に傍点]でございました。
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野上彌生子様
私が女学校の五年生であった頃、多分読売新聞に御連載に成った「二人の小さいヴァガボンド」を、深い感銘を以て拝読して以来、御作はいつも、密接な心的関係を保って、今日に至っております。
それは勿論、貴女が自分の志す道の先達であられるということもございましたろう。
けれども、それより直接に強く私の心を捕えたものは、御作を透して感じずにはおられない、独特の貴女[#「貴女」に傍点]でございました。その貴女[#「貴女」に傍点]は、ひどく私共のものなのです。然し私自身ではない――つまり、それによって、私が慰撫され、啓発され、人間らしい豊富な感情の一面を感得するものでありながら、自身の裡には乏しくほか生来持合わせない何ものかを、貴女の性格には豊饒に賦与されておられるということなのでございます。
貴女の御作を読むほどの者は、恐らく何人も、女性でさえも胸を和ら
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