徹性を欠いているように感ぜられるのでございます。けれども一方「盧生の夢」に於て、現世的虚偽な価値観念を打破り、異った場所と時代に於て、助教授Bを存在させている人生の半面に真実な意味での幻滅を感じ、感じさせようとなさった時、そこには余り多量に「物語」の雰囲気がございました。読者は、物語られた事象に対する、作者の人、及び芸術家としての真摯な評価的態度を直覚するより、先ず、物語りを語り愉む、作者の長閑《のどか》さを第一に感じます。それは、つまり、作者独特の創意が「物語る」興味以上に深く素材に浸透していないということではございますまいか。
このような用語が許されるならば、前者は感情的偏狭により、後者はその殉情的 extravagance により、倶に、心に迫る芸術的真実の生命を欠いているように思われるのでございます。或る場合には、他の作品に於ても認められるこれ等現象の根源は何処に在るのでございましょう。あのよき「霊魂の赤ん坊」を生んだものと、そのものとは如何なる内的関係を共有しているのでございましょう。これが如何なるものによって解決され進展し、拡大され、完成に到るかということ、これこそ最後の
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