ニズムのはじまりは子供を愛すことから発足するようにも云われているのだけれども、今日の私たちの生きている社会の現実を少くとも作家の目で見まわして、単純に子供を愛すこととヒューマニズムとは牴触しないと果して云い切れるものであろうか。
 舟橋氏自身の子供さんに対する心持の内側からだけものを云えば、もとより現在のところ、この二つのものは牴触していないのであろう。愛される子供の側からの愛されかたに対する注文が出ていず、氏として自身の愛情や質や発露に何の疑いも抱かれないでいる限り。然し、芸術の問題、芸術家の生きてゆく態度としてのヒューマニズムが現代の問題として存在するのは、例えば、一口に子供を愛すという、その日常感情を各人の日常の主観の枠の中で肯定してゆくばかりでなく、そこにはやはり拡大せられて来ている現在の社会感情を背景として、子供に対する愛とは何ぞや、今日の子供に対する愛はどのような方向と表現とを持って人間を高めより自由にするために発動しなければならないか、という叡智的な、同時に実践的な探求が新しく出されていると思う。
 子供を愛する、人間は子供を可愛がるのが本性である。そういう抽象的な一般論
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