夜寒
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)反古《ほご》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)用[#「用」に「ママ」の注記]われないのは
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 めっきり夜寒になった。
 かなり長い廊下を素足で歩きにくくなった。
 昼ま、出して置いた六六鉢の西洋葵を入れずに雨戸をしめた事を思い出した。
 たった五六本ほかなく、それも黄ない葉が多くなって居るのを今夜中つめたい中に置いたらどうだろう、青い細い葉柄がグンニャリと首をたれて黄葉も多くなるに違いない。
 私は仕かけた筆を置いて地震戸からそとに出る。
 ひどい霧だ
 かなり寒い
 息が白く暗い中に這って行く。
 気味の悪い形に私の影が細い戸口からさす光線でゆらめいて居る。
 用のないのに出あるくものもないと見えて表通りには足音もしない。
 植木台のはじにならんで居るのを二鉢ずつ三度運ぶ。
 食盛りの鶏の雛がうっかり地面に置いた時食べた葉がちぎれていたいたしくついて居る。
 厚い葉の表面が白くなって居る。
 早いうち気がついて好い事をしたと思う。
 泥のついた手を反古《ほご》でふきな
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