つもの気持のいい順助の声である。けれども、その声にはごく微かに何だかふだんでない響があるようで、桃子は返事が喉につまった。
それにかまわず、順助は、
「ね、僕が君に結婚を申し込んだとしたら大変にそれは唐突かい?」
ああ、ああ、このいいよう! 熱い光った波が体を貫いて桃子はそのまま攫われてゆきそうな気がした。考えたのはやっぱり自分ひとりではなかったのだ。
「――まるで考えないことだったかい?」
「そうじゃないわ」
それどころか、桃子はくりかえしくりかえし何度考えたであろう。特に勤めるようになっていろんな男のひとたちのタイプを見るにつけ、桃子には順助が決してどこにでもいる青年でないことがますますはっきりして来たのであった。
「どう思う?――不可能だろうか」
桃子はいつの間にか手摺をすべりおりて、窓に背をつけて坐った。
「可能性があると思う?」
「ね、順助さん……」
涙がつきあげて来て、桃子はやっと圧しつぶした声で、
「どうして従兄なんかに生れて来たのよ!」
両方の頬ッぺたを流れる涙を、桃子は荒っぽく手の甲で拭いては、それを子供らしくスカートにこすりつけた。
「父さんたち、ほんと
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