若々しい感情の波だちをもって人生に生きるものを、その幼稚さで嘲笑するのであるが、(そしてこのことは日本の文筆家の中に残されている強い封建制の現れとも見られるのであるが)若し我々が本当に動的《ダイナミック》な世界観をもつリアリストであるならば、作家として倦怠に陥入ることは殆んどあり得ないことと思う。モウパッサンが後年何故あのような現実の平凡な反覆という文句を繰返して苦悩したかということが、ここで考えられて来るのである。
 彼の秀れた教師フローベルはモウパッサンにこういって教えた――「世の中に石ころでも二つ全く同じ石ころというものはない。それを書き分けろ」――と。モウパッサンはそのように努力した。けれども表面に現れる現象だけを追究して、違ったもの違ったものと求めても全くそこにはモウパッサンをして歎かしめたような反覆しか認められず、やがて絶望へ逐い込まれるであろうということはよく分る。現実の面白さは、表面から、同じ石ころでない、二つの石ころを探すという現象の捉えかたにあるのではなくて、むしろ表面には一見同じようなものとして表われている現象の、複雑な内容にまで触れてそれを観ると、実はそれぞれが
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