説を書くのには満足できなかった。自分は「もう少し違った小説を書きたい」というのが私の今日までの謙遜にしてまた強情な一つの願いであった。それを実現するためには、今日まで自分としては全力的な発展のための努力がなければならなかった次第である。
リアリストは経験主義者ではないということについて。
私は、婦人作家の中では独特な作風をもっていた田村俊子氏の、作家としての生活振りを思い出す。彼女は日本で極く短い期間にロマンチックな形で現れたインテリゲンツィアの婦人解放運動と前後して作家活動をはじめ、前の時代の自然主義の婦人作家が示さなかった女の自我の問題を恋愛の経緯《いきさつ》の中に芸術化した。田村氏はそのことを極く自然発生的にやった。彼女のいわゆる一人の「女作者」の胸中に燃えている火のような熱が社会的にはどんな意味を持っているものか、また個性として現れている女の精神活動のその様な傾向は時代との関係でどんな普遍性をもっているかということについては考える力をもたなかった。自分というものを社会の現実の中に置いて、自分の発展や衰滅の道行きを理解することが出来なかった。そのために彼女らしい日常生活の横溢
前へ
次へ
全11ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング