木蔭の椽
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)縁《ヘリ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)とめ[#「とめ」に傍点]が書いた字だ。
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 今朝は、家じゅうが目醒しで起きた。Yが京都へ特急で立つのだ。ゆうべ、N氏のところを訪ね、十一時すぎに帰ってから風呂に入った。よく眠り、目醒しが鳴った始めの方を聞きとれなかったらしい。はっと気がついたら、茶の間で盛にオテテコテンテン、と陽気にオールゴールが鳴って居るのでびっくりした。家の目醒しは、引越し祝にN氏から贈られたもので、普通の目醒し時計のようにジジジジとただやかましくなるのではない。時間になると粤調、茉莉花という支那音楽の節をオールゴールで奏す仕掛けになって居る。それが、オテテコテンテン、オテテコテンテン、テンテンテンテーン、テコテンというように聞えるのだ。あわてて茶の間に出て見たら、きっちり片づいた卓子の上に一つころりとのって居る夏蜜柑に溢れるように澄んだ朝日がさして居た。
 Y出かけてから、私は改めて一寝入りした。十時半頃起きた。今月は雨が多く、鬱陶しく壁の湿っぽいよ
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