うな日が続いたが、今日はまがうかたない六月の天気だ。爽やかで、初夏らしく暑い。暑く、外光の燦らかなのが心持よい。十七の女中と、閑静な昼食をたべた。――今頃、Yはどの辺だろう。汽車の中は今日のような天気では蒸すだろう。Yは神経質故、昨夜よく眠れなかった由……
「Yさん、きっと眠がって居らっしゃるよ今頃――」
読みかけて居た本など、いきなりバタリと伏せ
「眠い! 迚も眠い!」
と、駄々っ子のように急に眠たがるYの様子を思い浮べ、笑い乍ら云ったのだが、女中には気持通ぜず。彼女は、飯茶碗を胸に高く持って坐ったなり子供らしくツクン、ツクンするようにして意味なく頬笑んだ。
「お前、京都へ行ったことある?」
「いいえ、ありません」
不図彼女が箸を持って居る袖口に目が行った。私は変な、不快を覚えた。単衣の下に見えて居るレースが、私共の肌襦袢について居るのとそっくりに見える。訝しく、襟元を見ると、あたりまえに襟をつけず、深くくって細い白羽二重の縁《ヘリ》がとってある。私共はいつもそういうのを着て居る。肌について居るものだから、いきなり、それお前の? ともきけず――人数が減り、家じゅうの空気がひどく透
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