になろう。
然し、お千代ちゃんを助けるつもりで、由子は自分の家で、一つ机でお千代ちゃんと一緒に勉強した。書き取りを読んだ。母に頼んでお千代ちゃんの為に歴史や地理の問題を出して貰った。
*
試験の日、由子はお千代ちゃんを試験場の、青い小さい席のところまで送って行った。
「勿論大丈夫だけれど、確《しっ》かりね」
お千代ちゃんは、受け口の唇に笑を浮べながら合点をした。昼になった時、由子はパンを買って来て、二人で食べた。そこは花壇の隅の狭い芝生の上であった。ニコライの鐘楼と丸屋根が美しく冬日に輝いて、霜どけの花壇では薬草サフランと書いた立札だけが何にも生えていない泥の上にあった。由子はうっとり――思いつめたような恍惚さで日向ぼっこをした。お千代ちゃんは眩しそうに日向に背を向け、受け口を少しばかり開け、煉瓦の際まで押しよせてその上に這い上ろうとしている芝の根を眺めていた。
実に思いがけずお千代ちゃんは試験に通らなかった。
*
学校から帰ると、由子は出かけて行ってお千代ちゃんを呼び、大抵自分の方へつれて来た。一つ机で、由子は方丈記を写
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