着て海老茶袴をつけて出た。新聞が、それを質素でよいと褒《ほ》めた。由子は、そうは思わなかった。いい着物をお千代ちゃんに着せたかった。あって着ないのではない。お千代ちゃんの家は貧しいのを、由子は知っていた。
お千代ちゃんが、由子の家から三町もない処へ越して来た。家じゅう引越して来たのではなく、お千代ちゃんだけ、お祖母さんのところへ来たのであった。いきなり木戸で、入ると花が一杯縁側まで咲きこぼれていた。縁側から油障子のはまった水口が見え、その障子が開いていると、裏の生垣、その彼方の往来、そのまた先の×伯爵の邸の樫の幹まで三四本は見られる。
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お祖母さんの家はそのような家なのであった。二階があった。そこに叔父さんがいた。その人は絵描きであった。
お千代ちゃんは、由子の入った女学校の試験を受ける積りであった。由子はどうかして入って欲しいと思った。女学校をずっと二人で通えたら、それは素晴らしいことだ。由子は勿論お千代ちゃんは容易《たやす》く試験を通るとその学力を信頼していた。そうでもなければ、市長からわざわざ御褒美を貰い、新聞で紡績の装《なり》を褒められたとて何
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