徒も無心、少し退屈を感じながら藤の花の散る下で、オルガンに合わせ、
一二三四《イチニーサンシ》、五六七八《ゴーロクシチハチ》
一二三四《イチトニトサントシト》、五六七八《ゴトロクトシチトハチト》
先生は男で白縮《しろちぢみ》の襯衣《シャツ》だ。そのような伸びたり縮んだり輪になる間に、お千代ちゃんと親しくなったのか。
由子はお千代ちゃんと一緒にかえる為に、女学校が退けると小学校まで廻った。お千代ちゃんが当番で、二人並び東片町の大通りを来ると、冬など、もう街燈が灯っていることもあった。
*
由子とお千代ちゃんは歌をうたった。
阿蘇の山里秋更けて
眺め淋しき冬まぐれ
…………
お千代ちゃんは内気らしく、受け口を少しあいて、低い声で歌った。由子は自分の肩をお千代ちゃんの肩にぴったりつけ、顔を上に向け、恍惚と声張り上げてうたった。
お千代ちゃんは、地味な白絣の紡績の着物に海老茶袴をつけている。
小学校を最優等でお千代ちゃんは卒業し、日比谷公園へ行って市長の褒美《ほうび》を貰った。その時、お千代ちゃんはやっぱり地味な紡績の元禄を
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