描いている。レーンの小説「戦争」又はレマルクの「西部戦線異状なし」バルビュスの「砲火」などを読んだ人々は、燈火管制下の夜の凄さというものは、仮死どころか、その闇の中にあって異常に張りつめられている注意、期待、決意がかもし出す最も密度の濃い沈黙的緊張の凄さであることを、実感をもって思い出すであろう。戦線の兵士たちが可愛い。法悦が顔にあらわれている。「神の子のような顔をした」兵士達云々と云っている林氏のロマンチシズムの横溢は、岡本かの子氏が昨今うたわれる和歌の或るものとともに、恐らく「神の子」たちの現実的な感情にとってはすぐ何のことか会得しかねる種類の修辞であろうと思われる。
尾崎士郎氏は名調子の感傷とともにではあるが、それとは異った他の人間的情況のスナップをつたえようとしている。榊山氏の文章は虚無的な色調の上に攪乱された神経と、破れて鋭い良心の破片の閃きとで或る種の市街戦の行われている国際都市の或る立場の人々としての現実を反映している。けれども、これらの文章の大体は、私たちが夜中にも立ち出て見送った兵士たちの生活と、何とかけはなれているだろう。女というものをめぐって扱われている部分だけ
前へ
次へ
全10ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング