歯科診療所をこしらえることにしたんです。二年計画でやったんです。みんなよろこんでいますよ。――わたしたちは誰しも早く婆さんになってしまいたくはないものね」
 私も一緒に笑ったが、ふと思いついてきいた。
「――でも、時間はどうなんです?――つまり仕事の間にここへやってきて治療して貰うらしいけれど、その時間は、やっぱり八時間の労働時間にくり入れられるんでしょうか」
「そうですとも。丈夫な体になっていなければ立派な働きもできないわけじゃありませんか。わたしたちには工場も健康も大切です、どちらも自分のものだもの。……そうでしょう?」
 わたしはこの言葉をきいて、体が熱くなるような感じにうたれた。革命まではロシアの工場でも、日本の工場と同じようなひどい条件で女が搾られていたのである。
 ドン国立煙草工場には自慢の托児所があり二百七十人ぐらいの子供の世話をやいている。私が行ったとき、托児所の庭の青々と茂った夏の楡の樹の下にやや年かさの女が三つばかりの男の子を抱き、金髪の若々しい母親が白い服を着せた生れたばかりの赤児を抱いて、静かに談笑しながら休んでいた。話して見ると、何と愉快なことだろう。この二人
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