か」
と念を押した。
「へえ、どうせ美味《おい》しいものは出来ませんですが、致して見ましょう」
「賄ともで幾何《いくら》です?」
神さんは
「さあ」
と躊躇《ちゅうちょ》した。
「生憎《あいにく》ただ今爺が御邸《おやしき》へまいっていてはっきり分りませんが――賄は一々指図していただくことにしませんと……」
忠一が、
「それはそうだろう」
といった。
「賄は別の方がいいさ、留守の時だってあるんだから」
「さよです」
「座敷代は、それじゃ源さんがいっていた通りですね」
一畳二円という事なのであった。
「へえ、夏場ですととてもそれでは何でございますが、只今のこってすから……」
彼等はそこを出てから、ぶらぶら歩いて紅葉屋へ紅茶をのみに行った。
「陽ちゃんも、いよいよここの御厄介になるようになっちゃったわね」
ふき子は、どこか亢奮した調子であった。
「――本当にね」
楽しいような、悲しいような心持が、先刻座敷を見ていた時から陽子の胸にあった。
「あの家案外よさそうでよかった。でも、御飯きっとひどいわ、家へいらっしゃいよ、ね」
大理石の卓子《テーブル》の上に肱をついて、献立《こんだて
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