を選定してくれたのであった。
 陽子、弟の忠一、ふき子、三日ばかりして、どやどや下見に行った。大通りから一寸入った左側で、硝子《ガラス》が四枚入口に立っている仕舞屋《しもたや》であった。土間からいきなり四畳、唐紙で区切られた六畳が、陽子の借りようという座敷であった。
「まだ新しいな」
「へえ、昨年新築致しましたんで、一夏お貸ししただけでございます。手前どもでは、よそのようにどんな方にでもお貸ししたくないもんですから……どうも御病人は、ねえあなた」
 筒袖絆纏を着た六十ばかりの神さんが、四畳の方の敷居の外からそのような挨拶をした。陽子は南向きの出窓に腰かけて室内を眺めているふき子に小さい声で、
「プロフェッショナル・バアチャン」
と囁《ささや》いた。ふき子は笑いを湛えつつ、若々しい眼尻で陽子を睨むようにした。その、自分の家でありながら六畳の方へは踏み込まず、口数多い神さんが気に入らなかったが、座敷は最初からその目的で拵えられているだけ、借りるに都合よかった。戸棚もたっぷりあったし、東は相当広い縁側で、裏へ廻れるように成ってもいる。
 陽子は最後に、
「賄《まかない》はしてくれるんでしょう
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