われた。いくら拭いても、砂が入って来て艶の出ないという白っぽい、かさっとした縁側の日向で透きとおる日光を浴びているうちに陽子は、暫らくでもいい、自分もこのような自然の裡で暮したいと思うようになった。オゾーンに充ちた、松|樹脂《やに》の匂う冬の日向は、東京での生活を暗く思い浮ばせた。陽子は結婚生活がうまく行かず、別れ話が出ている状態であった。
「あああ、私も当分ここででも暮そうかしら」
「いいことよ、のびのびするわそりゃ」
「――部屋貸しをするところあるかしらこの近所に」
 ふき子は、びっくりしたように、
「あら本気なの、陽ちゃん」
といった。
「本気になりそうだわ――ある? そんな家……もし本当にさがせば」
「そりゃあってよ、どこだって貸すわ、でも――もし来るんならそんなことしないだって、家へいらっしゃいよ」
「二三日ならいいけど」
「永くたっていいわ、私永いほど結構! ね? 本当に家へいらっしゃいよ、淋しくってまいるんだから」
「いやあね、まだ決りゃしないことよ何ぼ何でも――」
 笑い話で、その時は帰ったが、陽子は思い切れず、到頭ふき子に手紙を出した。出入りの俥夫が知り合いで、その家
前へ 次へ
全17ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング