た一日、
 不幸そうな日本人
 今中さんの親切。

 シアトルに着くと、海岸の町は、一帯の霧雨にくもらされて居た。然し思ったよりもさむくはない。先に、来た時よりは、一階上の部屋に定って、私が立つまで僅か三四日の生活が始められた。
 長い間、落付のない汽車旅行許りして来て、ゆっくり物を読む暇もなかった私共にとって、少くとも、三四日、誰からも邪魔をされずに、楽しくしずかな時を送れると思うと其は限りない快さだった。
 元通り、仕上げの精巧なブロンズのスタンドの立って居るコーナー、しずかなメツアニン、一年前に、此処を通ったときは予想の仕様もなかったAと、今斯うやって居る――
 白い天井に小ざっぱりとした壁がみをあしらった部屋は小さいながら、まとまって、暖におだやかな巣の気分を与える。
 町にで、記念のために買った本や、メキシカンの手製の元始的な壺などを並べた中で、する生活。

 机によって、彼が、カーキの粗い素朴なシャーツの広い肩を丸めながら物をよんで居るのを見る心持、其は私が且つて弟の後姿のいつの間にか青年に成って居るのを発見したときの心持通りである。

 レークジョージの机の上で、かげろう
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