無題(二)
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)紐育《ニューヨーク》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)「|瑠璃の浜辺《コート・ダジュール》」
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)色絨壇[#「壇」に「ママ」の注記]のような
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十一月十九日
North Carolina と South Carolina との間を通る。
砂の多い、白く光る地面には、粗毛のような薄茶色の草が一杯に生えて、晩秋の日を吸いながら輝く色々の樹木の間には、Sandstorm をふせぐための、腰の高い木造のバラックが、ポツリポツリ並んで居る。
赤みを帯びた卵色の地の色と、常緑樹と、軽い水色の空は、風景にふしぎな愛しみと暖かみを与える。とりのこされた綿の実が、白く見える耕地からゆるやかな起伏をもって延びて居る、色彩の多い遠景、近くに見ると、色絨壇[#「壇」に「ママ」の注記]のような樹々の色も、遠くなるにつれて、混合した、一種の雑色となって、澄んだ空の下に横わって居る。
赤や茶や黄や、緑や、其等の色は、「褪[#「褪」に「ママ」の注記]しゃ」を地にした此の辺の人間が着る着物のような、プリミティブな可愛らしい感じを与える。
色々の樹木が、肩を並べて立って居るようすは、都会のようだ。紐育《ニューヨーク》の建物を見て感じするような色と線の、交響楽を感じる。けれども、無人な或は、土の中のような色をした黒坊の母子が、放牧された牛などに混って、ぽつんと、野の中に立って居る様子は、非常に物淋しい心持がする。
にぎやかな色、あかるい空、しかし歌をうたう心持はしない。暖い大地の、不思議な物懶さと、陰鬱が、にぎやかな色彩に包まれて澱んで居るのである。南部に近い温帯の眠たさ、永遠の晩秋で冬は来ないのだろう。風のない、ひっそりとした風景。
耳の長いドンキに、綿をつんで、赤ちゃけた道をコロコロと転って行く黒人。
南へ来るにつれて、初冬のかたさが、天地にうちにとけて、ほの暖く成って来る。
Blacksburg(South Carolina)に来るとステーションに、Coloured, White と別にした札が下げてある。此からサウスキャロライナに入ったのだ。
黒人の太い、しかしどこかに胡弓を弾くような響のある淋
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