ってむこうの山はちっとも見えなくなった。海が近いところらしい大胆な雨に頭のしんまで洗われるようなよろこびを感じた。よろこびは、○の鼓動を活溌にした。そして、敗戦によって日本が新しく自らの建設をうけとったという事実を感じ直した。
[#ここで字下げ終わり]
○のいる家から町の駅までは僅か数丁の距離しかないので、丁度その扇形の見晴らしを通過する頃どの汽車もスピードをおとした。過ぎて行く貨車の一つ一つ、客車の窓の一つ一つが見える。どの時間に通る列車でも客車は一杯だが、不思議なことに、満員《マンイン》乍らまだ十分客車に入れる予地があるのにステップのところや汽罐車の石炭の上にのっている人々がある。そういうところなら結局こまなくて楽だというのだろうか、ふだんには出来ないことを今は平気でやっていられるというところの面白さからだろうか。
今も雨をついてローカルが通った。八分どおりは満員だが、窓ガラスの中は比較的閑静で車室に人の立つあきはある。これはすいている と思って見ていると、やはりステップに立ってつかまっている人々がかなりある。しかも最後の車台が通りすぎようとしたとき 一人のカーキ色服の男が、最
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