無題(四)
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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 私は絶えず本を読まなければならないと云う心持がして居る。
 一日の中一度も何の本も読まないで過ぎると、何だか当然取り入れなければならないものがすぐ手近かにあったのに、知らん振りをして見ない顔をして通った様な不安が起って来る。
 日記をつけるときにたった二三字でも読んだものに対する感じのまとまって来るときは安らかな、自分の中にどこか確かな所の有る様な心持になる。
 私の心には絶えず本に対する要求が絶えた事は無いらしくある。
 けれ共ごく稀には、自分の日常生活の習慣に支配された様な形になって、純にその人の精神なり何なりに接せずには居られないと云う感じより、読まなくちゃあならないと云う謂わば一日中の手順を狂わせる心持悪さから一枚なり一枚なり読む事がある。
 左様な時に必然的な強い要求の起って来ない――来て居ると思ってもそれは単にその想像に過ぎないものである事は疑いない。
 斯様な心持になる事は決して、私一人の心持ではない。
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