無題(四)
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蝙蝠《こうもり》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)「彼は美徳を信じて居る[#「彼は美徳を信じて居る」に傍点]。」
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ヘンリー・ライクロフトの私記の中に、
自分は、斯うやって卓子の上にある蜜も、蜜であるが故に喜んで味わう――ジョンソンが云った通り、文学的素養のある人間と無い人間とは、生者と死者ほどの違いがある。この蜜についても、若し私がハイメッタスやハイブラをちっとも知らなかったら、自分にとって何だろう、と云って居る。蝙蝠《こうもり》が夕暮とぶのを見る面白さも、闇夜の道に梟の鳴くのを聞く満足も、皆彼等が詩の世界に現れるものだからだ、と。
私は自らギッシングの心を二様に考えさせられた。
一方の考。――彼は本当に純な尊い文学愛好者であった。自分が文学者として如何うだと云う批評や野心等は抜きにして、青年のような熾な愛、帰依で先人の文を追想し得た尊い心情の持ち主であると云う感服。
他の一方は。――彼も、ヴィクトリア時代の考証癖を脱し切れず、自分がこれはどう感じ見る
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