で表示して居るようだとさえも云えるだろう。
斯う云う真夜中に只一人起きて居ると、余り、自分の総てが明かに意識されるために、一寸、一足その妙に静まった部屋の中で歩いても、直ちに、その部屋にある丈のものが、同じだけの距離を、動く自分につれてゾロリとずって来そうな気さえする。
大きな机に向って、燃え落ちた黒いストーブを眺めながら、彼女は殆ど夜に圧しすくめられるように成って、彼の事を思うのである。
○段々夜あけが近づいて来るにつれて、今まで灰色だった鈍重な窓がらすはいつか透明なコバルト色になり、その堅い、半透明なコバルト色の硝子の上にうつる、黄色の微かな灯のかげが彼女には、何とも云えない新鮮な、晴々とした気分を与える。
何処かで、舌をふるわせて居るような汽笛の音がした。
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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