まに、心に浮び、目に見えながら、その動いて居る彼を、しっかりと掴み得ない焦躁。魂と魂とが、殆ど聴えるような声で物語り合って居る時、真個に愛する者を抱く事の出来ない辛い寂寥は、何物にたとえる事が出来よう。魂と魂との愛が深くなればなる程、その魂を宿す身を求めずには居られない。
或時には、情慾だと思って、自分で恥じるほど激しい思慕が、身と魂を、白熱して燃え上って来るのである。そう云う時、彼女は、只出来得る限りの謙譲で、そのたい風の過ぎ去るのを待つよりほか仕方がなかった。しっかりとくんだ手を胸の上にのせて、汗ばんだ額を仰向けながら、自分達を透して輝く愛の前に跪拝してしまうのである。
そういう激しい亢奮が、生理的に彼女を刺戟するときでも、彼女は決して、具体的な対象を彼以外に求めようという気さえもなかった。
自分の持つ愛が際大な、運命と直接なものであればある程命の、本能的な純潔さの希望が、彼女を支配する。これは、真個に愛すこと、この事と同時に起る保守であるようにさえ見える。
愛する、生命と共に愛する者によって支えられた恍惚を、同じ程度に於て、如何那なる相手からも、生理的に与えられるという事
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