ーの問題じゃない」という。
m、きのう小声で「温室の石井ってのもインチキだね」という。
「何故?」
「だって、お前きっちり十二時に来るんだよ 一遍や二度ならだけれど……」
m、金を惜しくなって来た。それを、そうスラリと云わずに
「温室のことで怒ったりしては 彼[#「彼」に傍点]の意志に反する」とか、又このようなカラミでやる。
つまり石井をことわったらしい。
○mが彼[#「彼」に傍点]というとき、聞くものは体のどこかを突かれたような感じをうけ、いやで毒々しく感じた。英男とはまるで内容の違う彼[#「彼」に傍点] 母流の彼[#「彼」に傍点](いやみな)を感じ、はずかしかった。
○その午後 バスケットに入れて 猫を貰って来た。
「幸福なところへ行くんだ」
ところが、逃げ出し いくらまってもかえって来ない。
「困ったね」
キク「本当に、お話も出来ませんね」
夜仕事をしていると「ハナレ」
「一寸お話がございますから」と来る。
「猫のことだがね、私の家には猫を飼わないよ、お前の家なら御勝手だが……」
「逃げちゃった」
「逃げたでいいならかまわないがね……」
「それから その机の上を片づけ
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