急ぎました。三十分立った時二匹の馬は町のにぎやかな所の本屋に立って居ました。詩人は柔い雅号で出版の手つづきをすませて又二匹の馬は村に向いました。詩人の母や祖母はふるえる様によろこんでこの美くしくて幸多い人の行末をどうぞまっすぐに行く様にと夕のおいのりはいつもより倍も倍も久く時をかけました。その翌日もその翌日も楽しく嬉しく望多い日が経ました。一週間たって若い力のある人々のあつまって居る文壇に一つの可愛い姿をした詩集が顔を出しました。何か変ったものがほしい、何かめずらしいものがほしいと思って居た人々はそのめずらしいお客様を早速手にしました。人々はそのめずらしい旅の様子に驚かされその美くしくてやさしい歌言葉に驚かされました。本の評判は見る見るあがって日々の新聞にはいろいろの人がいろいろな目をもって評して居ました。けれどもどれ一つとしてそのものを悪く云ったものは一つもありませんでした。その筆の達者な美くしい詩を書く人はどんな世なれた人かと思ってその住居を訪ねた人は母にたすけられて出て来た美くしい女の様な目の大きな少年がその作者ときいて驚はますます深められました。世間の人々は美くしい人をなお美く
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