思議なお話を貴女にきかせなくてはならないんですもの。ローズ、またあとで」
[#ここで字下げ終わり]
 美くしい人のかげはとなりの門の中に入りました。詩人は内に入るとすぐ、
詩「お母さん、会いたかったのに」と云ってかけ入りました。詩人のまだ若い母はまどのそばでぬいとりをしていました。その声をきいてはじかれたように立ち上って、
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
母「マア、よくかえってお呉れだった事」
[#ここで字下げ終わり]
 こう云った時にもう詩人の胸は母の胸によっていました。白い巾はみどりの波の上にういたようになって花びんのローズは美くしい子の帰ったのをよろこぶ様にかるくゆれています。その声をききつけてすずしい部屋でうとうとしていたお婆さんも、かるいかおをして入って来て、
婆「よくかえってナ」と云ってかれたような手で頭をなぜて白いなめらかな額にキッスして呉れました。にわかに家の中は色めき渡って急に夕飯のおこんだてをかえた母は白いエプロンのメイドと一所に心地よく働いています。
 美くしい詩人は旅のつかれにやわらかいソファーにやわらかい光をあびて夢を見て居ります。白い頭巾のお婆
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