無題(一)
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)如何那《どんな》

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 故国に居る父や母が、きっと此那物を送ったら喜ぶだろうと思ってわざわざ送って下さった種々の物、仮令其は如何那《どんな》小さい物であろうと、私は恐らく両親の期待された以上の喜びを以て其を戴く。
 若し、自分の家に居て、何の不自由も感じない生活の中に於てなら、或は、不満さえ抱くかもしれないものにさえ深い有難さを感じずには居られない。
 よく本を送って下さる。遠い所を手荒な人足の手で、船艙へ投《ほう》り込まれ、掴みまわされて運ばれて来るのだから、満足で着く事は今まで殆ど無い。
 大抵包装の外が破れて、本の四角は無惨にも、醜くひしゃげたりつぶれたりして居る。
 けれども、其の汚れた包みを見た時に先ず思う事は、よく無事に着いてくれたというよろこびである。
 遙々と来た旅人が、汗塵に黒くなった顔に快く浮べる微笑を見る心持である。
 其の無言の微笑の裡には、慕しい故国という、又此も無言の、又、無限の感動
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