の中に一つ小さい可愛い、インディアンシューズがある。
 此は全く小さくて、可愛い。白皮に此も雪白のうさぎの毛を飾って、つまさきは、美くしいビーズで一寸した模様を置いてある。私はそのフワフワと手触りの柔かい靴を掌に乗せて、暫くは凝っと眺めて居た。
 丸い肥った顔と、清んだ朗な高い声、小さい独り言と、太陽のような大笑い。
 自分は顔をぎぅーっと挾んだ二つの手が、急にパチパチと頬ぺたを叩く心持さえまざまざと思い浮べた。
 貴方は小さい、いい妹を御持ちですか?
 土の臭いとも乳の臭いとも分らない肌のにおいをかぎながら、「頬っぺ」をなさったことが御ありですか、
 私は、貴いものを拝すようにもう一遍その白毛の小靴をまるめて、箱に入れた。
 が、此丈で私の感動は静まらない。小さい“The Bubble book”の裏に自分は此那文句をかきつけた。

[#ここから2字下げ]
木の葉 サラサラ
水はチラチラ夏の日に
ホッカリと浮く小さい御舟
御舟に乗ったはどなた様
小さい 可愛い
  寿江子ちゃま――。
[#ここで字下げ終わり]

 寿江子ちゃまは我が妹の名である。



底本:「宮本百合子全集 第十八
前へ 次へ
全4ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング