妙な子
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)自《うぬ》ぼれ
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)恐っ[#「恐っ」に「(ママ)」の注記]た時に
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私は母からも又学課だけを教えて呉れる先生と云う人からも「妙な子」、「そだてにくいお子さん」と云われて居る。自分では何にも変なお子さんでも妙な子でもないつもりでもはたからそうして呉れるんでよけいにそうなったのかも知れない。私は母から見れば妙な子と云われてもしかたがない、って云う事は自《うぬ》ぼれのつよい自分でも知って居る。それは母って云う人は一体理性のかった人で(但し恐っ[#「恐っ」に「(ママ)」の注記]た時にどなり出すのはくせだけれど)可愛そうで泣きたいように私の思う事でも世の中にはたんとあるこったものと云う人であるに引きかえ、私は泣きたければすぐ泣く、笑いたければすぐ笑う。私の感情はすぐに顔や口振にあらわれて来る。だから母から見た私は妙な子なんである。人達の笑いながらしゃべって居る時に私は何かよんだものの中の主人公なんかを思って別に気もつかず悪気もなくって考えこんで居ると、いきなり私の母は私の体をゆすったり大きな声を出したりして私の思った事をめちゃめちゃにこわしておいて、別にあやまりもしないで私のかおを大穴のあくほど見て一人ごとのように「妙な子だよ」と云う。そんな時には私はきっしりと抱いて居たものを頭の上から手が出てうばって行ったようなぽかんとした気持になってしまう。
私は人から妙な子と云われるのを格別苦労にも思わなければ又かなしいとも思わない。もしかすると妙な子と云われるのがほんとうなのかもしれない。まだ世の中のことを知ったようでまだ知りきれない半じゅく玉子のようなブヨブヨした私の心にはいろいろな不思議な事があり又不安心な事が大沢山ある。それがたぶん私の妙な子と云われるわけなんであろう。
私の一番不思議で又知りたいのは、
人間はなぜ生きて居なければいけないのか、死にたい時に勝手に死んでもよさそうなものだに。
と云う事である。その答として母の云ったことは、
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「天職を全うするため」だと。
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又私はその天職ってものがどんな事が天職であり又神様の思っていらっしゃる天職であろう。天職と云って居るのは人
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