間であるから若しや神様の思って居らっしゃる天職とはかけはなれた事を天職だと云ってやしないか。
 母の答はこうであった。
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「女の天職と云えば立派な世の中に遺す事業のような事の出来るような子を産むのが女の天職である。なぜかと云うと神様の作った世界がほろびずに行くと云うのは女が子を産む事があるからで神様は自分の作った世界のほろびる事を望んで居られる筈はない。神の心を満足させるような神の望んで居られる仕事をするのがとりもなおさず天職である」
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 そんならかたわでも馬鹿でもどしどし子さえうんでおけばそれでよいのか。若し世の中に事業をのこす事の出来る頭をもたない子を産んだらばその母は罪をおかしたものだと云われることが出来るかも知れない。
 一番おしまいに私に答えてくれた母の言葉は、
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「そんな事は世の中の人がいくら考えたってわからない事なんですもん。そんな事ばっかり考えて居れば気でもちがって華厳行になるよ。ほんとうに妙な子だ」と云うのであった。
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 私は椽がわからつきおとされたような気持でだまってしわの多くなった私の母のかおを見つめて居た。母は又、
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「そんなこわいかおをして。ほんとにこまってしまう妙な子で」又妙な子と云った。
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 私は又娘にでも人の母にでも妻としての女にでもそれぞれこうであってほしいと云う心を持って居る。
 娘は、いかにも娘らしい古風な島田にでも結うような娘ならば人から何か云われると耳たぶまで赤くしてたたみの目をかぞえながらこもったような声で返事をする。髪でも結ってくれるので満足して一通りの遊芸は心得て居て手の奇麗な目の細くて切れのいい唇もわりに厚くて小さく、手箱の中にあねさまの入って居るようなごく初心《うぶ》い娘がすき。
 当世風の娘ならば丈の高い、少しふとり肉《じし》の手のふっくりとして小さい、眼のまつ毛が長くて丸く大きく、唇もあんまり厚くなく、あごのくくれたような輪かくのはっきりしたかおがすき。物をいわれてもはぎれのいい少し高調子の丸みのある声で答え、たたみのけばなんかむしらない人、いろいろな向[#「向」に「(ママ)」の注記]面に趣味をもって音楽も少しは出来文学の話相手も出来る人、髪でもなんでもさっぱりしていやみのな
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