いめずらしい形に結って思いっきり何でもはっきりした娘がすき。
 妻となった人ならばいかにも可愛らしい、殊[#「殊」に「(ママ)」の注記]別の丸みを心にもってやさしみのある、そばに居たらいつまでもはなれたくないような人、顔なんかどうでも声なんかどうでも只、夫にからかわれてもおとなしくやりかえし、手紙の代筆も出来、お料理が上手で朝夕の送り向[#「向」に「(ママ)」の注記]えを気持よくしていつもきげんよくして居る人がすき。私はおくさんの顔なんかのぞまないけれども只あんまりふとっちょさんはきらい。
 おっかさんは学問があってはっきりもののわかる、子供の性質をよく知ってその子によって真面目に研究してくれる人。なるべく子供が見てああいやだなんかと思うような事をして呉れないように。
 こんな事を母に云ったら私の母は、むずかしい事を云ってる人だネー、くだらないとたったそれっきりではねつけてしまった。私は始終いろいろな望や、疑や、いろいろな思いを持って居る。私はどうしても妙でない子になる事は出来ないかも知れない。大人になるまで、――否、死ぬまで、私は妙な子、そだてにくいお子さんと云われるのをきくたびによそのことのように聞き流しながら心のそこでは、
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「そんなに妙だ妙だって云わずといいじゃあないか。妙な子だと云ったところでなおるわけでもなし、私は死ぬまで妙な子でいいんだ、面倒くさい」
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となげ出したようにいう。私はその心の云うことも聞こえないふりをしていまだになぜ生きてなくっちゃあならないんだ? と思いながら半分の頭ではよんだり書いたりしゃべったり、ねたりおきたり人なみにして半分の頭が人をして時々今だに妙なお子さんと云わして居る。私は死ぬまで妙なお子でいいんだ。



底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年12月25日初版
   1986(昭和61)年3月20日第5刷
初出:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年12月25日初版
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2009年1月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの
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