脈々として
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)劇《はげ》しい

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四九年八月〕
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 ロジェ・マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」十一巻は、いまこそ、日本の読者のために、その翻訳を完結されなければならない。第七巻まで翻訳出版されたのが一九四〇年八月。兇悪な戦争が、訳者山内義雄氏と出版社白水社の仕事を阻んだ。六年を経て、一九四六年十一月に第八巻「一九一四年夏」第一部が出版されて、更にきょうまで三年の月日が沈黙にすごされている。「チボー家の人々」の日本語版がめぐりあったこれらの障害は、一つとして国際的な風波の反映でなかったものはなかった。
 新しいエポークが世界と文学にひらけかけているこんにち、一九二〇年―三七年の間に書かれた「チボー家の人々」は、ロマン・ロランの「魅せられた魂」とともに一つの古典的な記念碑となった。フランス中流の、誠実で人間らしい人々は、第一次大戦前後の劇《はげ》しい歴史の摩擦相剋のうちに、どのように生き、破滅し、成長して行ったのだろうか。ジャッ
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