クという名は、きょうのわたしたちを深くひきつける。日本資本主義独得のひねくれ、欺瞞と粗野、卑屈のジャングルをかきわけて、明るい世界の心をわけもたずには自分を生存しているものとして感じられなくなっているきょうの日本の真面目な人々の理性と心情に、「一九一四年夏」を生きたジャックは何を語るだろう。ヨーロッパの精神史にとっての一九一四年は、時間的には1/4世紀以上おくれて、しかし、社会と個人の歴史が飛躍するための要因としては、ジャックの所有したものと比較にならない複雑ゆたかな条件をそなえて、きょうのわたしたちの前にある。
 第二次大戦を経験した成長で「一九一四年夏」をかえりみたとき、もしかしたら、マルタン・デュ・ガール自身そこに、いくらかまだ観念的だった革命性や、革命についての語りかたを発見しているかもしれない。しかし、重要なことは、作者であるロジェ・マルタン・デュ・ガールと彼の読者である人々とはともに反ファシズムの人民戦線につき、第二次大戦でナチの侵略に抵抗したたかったという事実である。そして、西ヨーロッパの明日の運命に対して、最も重大な関係をもっているフランスの民主精神堅持のために、こんに
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