未来を築く力
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き]〔一九四七年八月〕
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 女のひとというものは道理がわからないものだ、そう思われるのが常識であった時代はすぎた。夏目漱石が「吾輩は猫である」のなかで、婦人の精神の低劣さを諷刺した文章は、今日、もう日本の女性のおろかしさを語るものではなくなった。却って、漱石ほどの作家でさえも明治四十年代の日本の社会では、婦人についてこういう見解を語ったのだから、日本の封建的な習慣というものはひどいものであったと、凡ての人に考えさせる資料となった。
 道理もわかり、その方法も可能性として婦人の生活に芽生えているのに、まだ何か、婦人の日々のうちには湧き立つ美しくつよい力が不足している。あとからあとからとおさえがたい力で泉がふき出て来るような創造がまだ私たちの毎日にあふれていない。それは、なぜなのだろう。
 日本の女性は、余り過去に圧えられ従えさせられて来た。そのために、自分たちが現実にもっている実力に対して自信をもっていないのだと思う。可愛いいよちよち歩きの幼な
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