のや青いものが上になったり下になったり、銀座の夜店で売っている色紙細工の気味悪い遊び道具のように、のたくり廻るのを感じた。
油井は、喉仏から出すような声で話した。
自分が出て行く迄に油井が帰ってしまいはすまいかという不安で、みのえは死にそうであった。今は大切だ。一つの身動きで子供が目を醒したら最後だ。みのえは一筋に油井の声に縋《すが》りつきながら、一生懸命
「ねろ、ねろ、ねろ」
呪文を称え、ぎっしり自分も眼を瞑《つぶ》った。息を殺して子供の寝息をうかがうみのえの前に、切ない待ち遠しさが光った道になって横わった。
○
母親が先に立って行く。一間と離れず油井とみのえがその後に跟《つ》いた。それでも人波の間に紛れてしばしばお清の後姿は彼等のところから――お清からは彼等が見えなくなった。
みのえはそれを楽しみ亢奮して売場、売場の間を歩いた。油井が着物を買うのに、お清母娘を誘い出したのであった。
「――一人で買いにいらっしゃいよ、番頭が見たててくれますよいい加減に」
「そりゃそうでしょうがね、三十にもなれば大抵細君がそんな心配はしてくれるものでしょう。侘し
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