空にある白い雲が近くに感じられた。みのえの体のまわりにある草の中に、黒い実のついたのがあった。葉っぱが紅くなったのもある。一匹のテントウ虫が地面から這い上って、青い細い草をのぼった。自分の体の重みで葉っぱを揺ら揺らさせ、どっちへ行こうかと迷っているようであった。地面の湿っぽい香と秋日和の草の匂いとが混ってある。
みのえは、涙を落しそうな心持で、然し泣かずそこに足をなげ出して虫や草を眺めていた。少し病気になったようにみのえは奇妙な心持であった。母親も油井もいやで、がっかりして、風も身に沁みる、空の高さも、そこに飛び交う蜻蛉《とんぼ》も身に沁みる。魂が空気の中にむきだしになっていた。
長い時間が経った。
みのえは、背後で荒っぽく草を歩みしだく跫音《あしおと》を聞いた。みのえは自分の場所からその方を見たら、一人の十六七の小僧が立って放尿していた。白いシャツに腹がけをしめ、何故か脚の方はすっかり裸であった。
みのえは直ぐ正面を向いた。
小僧は草をこいで段々みのえの傍に来た。一歩一歩近づくのが判ったが、みのえは恐怖で痺《しび》れ体を動かすことが出来なかった。眼尻を掠め、股まで裸の二本の
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