脚と穢《きたな》い体の一部が見えるくらい傍によった時、小僧は低い震えるような声で、
「――……」
と云い、みのえの正面へ立ちはだかろうとした。みのえは、のっそり立ち上り、小僧を睨みつけると、物も云わず片手にキラキラ閃くものを振り翳《かざ》し小僧に躍りかかった。
気がついた時、みのえは元よりずっと草原の上の方に跳ねとばされていた。四五間下の方に、小僧も倒れた。彼等は互に睨み合いながら、獣のように起き上った。みのえは、後じさりにそろそろ上の坂の方へ出ながら、組打ちした場所と思わしい辺をちょいちょい見た。リボンで帯につけていたエ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ァーシャープを彼女は振り廻したのであったがそれが環のところから※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《もぎ》れてどこへか行ってしまった。
小僧は、じろじろみのえの方を見ながら草をこいで草原の縁へ出、つぎの当った股引《ももひき》をはき始めた。その時、路の彼方に大人の男が現れた。パナマの縁をふわふわさせながら。――
みのえは、坂を下り出した。子供の微かな叫び声と、赫土の空地が行手にある。あたりは先刻《さっき》の通り静かで
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