時も油井が直ぐ二階から降りて来た。そして、みのえの手を引っぱって二階へ連れ上った。
――云いたいことが沢山あるようで、それが何か分らない、唯ひどく心を押しつける。みのえはしょげて黙った。油井がいやな人のように思われ、悲しくなった。お清もいつか真面目な眼付きになって手を動していたが柱時計を眺め、
「どれ」
と縫物を片よせ始めた。
「こんなこと、誰にも云うんじゃないよ」
みのえは素直に合点をした。
それは、もう秋であった。
暑いが、草木を照す日の光が澄み渡って、風が乾いた音で吹いた。
みのえは家を出て、赫土のポクポクした空地を歩いて行った。広い空地で、ところどころに赫土の小山があった。子供が駈け登ったり、駈け下りたりして遊んでいる。その叫び声が、高い秋空へ小さく撥《は》ねかえった。赫土には少し、草も生えているし、トロッコの線路も錆びている。
Lをさかさにしたような悠《ゆる》やかな坂をみのえはのぼった。坂の上は草原で、左手に雑木林があった。その奥に池があった。池は凄く、みのえ一人で近よれない。みのえはだらだらと下った草原の斜面に腰を卸《おろ》した。
百舌鳥《もず》が鳴いていた。
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