―みのえちゃん朝好き?」
「好き」
ずっと顔をさしよせ、
「私もすき?」
「…………」
頬笑み、木の実のような頬をしたみのえの手をとって、彼は、
「こっちへおいで」
と立ち上った。
彼は掃かない座敷の真中に突立って、確りみのえを擁《だ》きよせた。そして、幾つも幾つもキスし、自分の体をぐうっとかぶせてみのえを後へ反せるようにした。一度目より二度、もっときつく反らせた。
倒れるかと思って、みのえは両手で油井の羽織の背中をつかみ、
「あぶない、あぶない」
と、笑った。油井は真面目な顔で喉仏から出る声で、
「スウェーデン式体操」
と云った。
○
紫や黄や朱の縞のある新しいネルの元禄袖を着ているみのえの体から、いい匂いが発散した。
油井は、剪《き》りたての花でも見るようにみのえの坐り姿を見つめていたが、
「どうしてそんなに奇麗?」
と呟いた。
みのえは嬉しそうに、満足そうに笑った。みのえも今朝は何だか自分がいい匂いなのや、何か別の生物みたいなのを感じたのであった。
「ね、みのえちゃん、私と結婚してくれる?」
結婚という言葉はみのえに漠然と飛躍を期待さ
前へ
次へ
全17ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング