来た家に於てでなければ、持ち得ないことのように思って居たのである。自分達が主であると頭では分って居るのだが、いざ家でも定めるとなると、家そのもののよさ、わるさが、却って、自分達を圧するような傾向があったのである。
台所は遣って呉れる人があると云う安心も、大きにあずかって力あることだろう。
瓦斯があり、風呂場がなくても建てる場所さえあって四辺が静かなら、外に希望はなく思ったのである。
今の家はひどい。表通りを荷物自動車が通ると、地震のように家中が揺れる。而も、埋めたての崖の上に建って居る家だから、時に、いやな想像に脅かされることさえある。――
二時間も立たないうち、出かけたAは、いそいで戻って来た。自分にも一緒に見に行くようにと云うので、二人で、青山に出かけた。一丁目の停留場で降り、本郷から来ると右側の、石勝と云う石屋の横を入って、突当りから左に小一町行った処にあると云うのである。天気のよい日で、明るい往来に、実に尨大な石の布袋が空虚な大口をあけて立って居る傍から入ると、何処か、屋敷の塀に一方を遮られ、一方には小体な家々の並んだ細道は霜どけで、下駄が埋る有様である。
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