須田町で会って銀座を歩こうと云って行った。その積りで起きて見ると、卓子の上に、学習院の門衛からの葉書がのって居る。
 青山北町四丁目に一軒ある。見たらどうかと云うのである。
 約束の時間に、自分はその葉書を持って須田町へ行った。そして、銀座行を中止して青山に行った。随分気をつけて広告は見るが、青山には、一寸見当らない。案外よいのかもしれないと、家を探す者独特の、期待、空想を抱いて行ったのである。
 電車の中でも、口を開くと、自ら家のことになる。
 家主だと云う質屋を、角の交番の巡査に訊いてAが入って行く。
 自分は、程近い停留場に待って居た。場所をきき合わせる位と思ったのに、なかなか出て来ない。歩道に面した店の小僧など、子守などは、不思議そうにじろじろ自分を見る。
 待ち、疲れた時分に、やっと、Aは、山高の頂を揺り乍ら現れた。その顔を一目見て、自分は余り思わしくないことを感じた。
「どう?」
 自分は彼の方に近より乍ら訊いた。
「さあ、とにかく見ようじゃあないか」
 家と云うのは、つい近くの、何々質店、信用、軽便、親切と、赤字で書いた大きなアーチ形の広告門をくぐって行った処に在った。

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