りはどう見ても会得しかねた。一度ならずくり返えして見て、わからずしまいであった。今なおまざまざとのこっているその印象を目の前にくりのべてみると、それはまさしく日本のロマンティック時代の絵画の一葉であったことがわかる。燃える夕陽と迫る夕闇の池の上で、若い男の顔の半ばが、その胸によりすがっている若い女性の黒髪のかげにかくされていたというわけであったのだろうと思う。感傷と未熟さの朦朧体にくるまれて、その絵はおませな女の子の眼に、どうしてもわけの分らないゴリラに似た塊りとして映ったのは愛嬌がふかい。
女学校に通うようになってから、私はいつとなし玄関わきの七畳の部屋を自分の部屋にするようになった。省吾叔父がそこに暮していた座敷である。
いろんな目立たない隅々から古い本棚だの古い本だのをもって来て、下見窓のわきに並べた。その最初の蒐集の中に、今再び埃の下から現れた赤いクロースの『太陽』だの『美奈和集』だの、もうどこかへ行って跡かたもない黒背皮の『白縫物語』だの『西鶴全集』の端本だのがあった。ポーの小説集二冊を母が何かの拍子で買って来てくれたことから、次第に私の本棚にはワイルドだの、小川未明だの
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