本郷の名物
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四九年六月〕
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本郷の名物は、いろいろある。たべるものにも、見るものにも。このごろ三丁目のところにマーケット風な店をひろげている小間物店「かねやす」は江戸時代の川柳に「本郷もかねやすまでは江戸のうち」とよまれている。
「赤門」も本郷名物の一つであり、大学正門の銀杏並木も、学内の現実を、初夏はその若葉で、秋にはその黄葉で美化して見せる名物である。
本郷にはもう一つわたしにとって忘れることのできない名所がある。それは本郷区役所と並んでそびえていた本富士警察署の留置場である。一九三〇年代にいくらかでも解放運動に関係のあった人は、日本の各地方に名所的警察署があることを知っていた。本富士署は、東大をひかえて、左翼の理論を追求する学生をいつも多勢留置しなければならないために、留置場の看守たちは、ひどく風変りな独自性を身につけていた。ひっぱって、ぶちこむ(どちらも彼らの常用語であった)学生たちと理くつでいい合えば看守に分があろうわけはない。東大
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