の学生その他に対し、本富士署の看守は、全く軍隊式にやることをかしこい手段と発見した。
 軍隊式というのは、入って来るやいなや、些細なことをきっかけに先ず、ビンタをくわせ、ここをどこだと思っていやがる。地獄の三丁目だぞ? とどなりつける。そして、すべての機会をのがさず、コンクリートのせまい廊下へひきずりだして、古タイヤのなかの赤いゴム・チューブで、留置者をひっぱたくのだった。女でも、ひろい室の真中に一列に正座させて、どこにも背中のもたせられないようにし、すこし居眠りしていると監房の大きな錠前をひどい音でガチャン! とたたきつけて、おどろかした。時間ぎめで、順ぐり用便させるとき、すこし手間をかけている男に、きくにたえない悪罵をあびせながら、水道栓にホースをつけて、かがんでいる者の頭の上から水をぶっかけた。どこでも、女のためにはいくらかの心づかいをして、たとえば、朝おきたばかりのときは女をさきに便所にやるようにしていたのに、本富士では女をあとにして、しかも掃除をすましてからでなければ、許さなかった。こういうことは、自由な生活のなかでは想像できない苦痛を与えることだった。
 戦災で本富士署が焼
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